【推薦文】ハルコナ

 この記事では会員が作成した『ハルコナ』の推薦文を公開致します。
(推薦文とは→http://d.hatena.ne.jp/chuo-bungakukai/20161022/1477118453


[本紹介]
秋田禎信『ハルコナ』2016年、新潮文庫nex


[あらすじ]
5年前、遠夜(とおや)の隣に引っ越してきたハルコは特異体質の少女。数十キロにわたり花粉を消滅させるかわりに 自分には有毒となるため、宇宙服のような防護スーツを着けなければ外出ができない。通学は遠夜がサポートを続けるなか、事故が起きる。それはクラスメート を巻き込む事件へと発展するのだが。――世界を敵に回してもハルコを守りたい、と願う17歳の決意が迸る圧倒的青春小説!
※上記の文章は新潮社のホームページ(http://www.shinchosha.co.jp/book/180069/)より引用致しました。


[推薦文]
 この本は、まず表紙がかわいい。表紙の女の子がかわいい。そして、帯。帯に銘打ってある「純愛」という言葉を見て、この本を手に取った。いざ読んでみると、なるほど、それは高校生らしい、不器用な愛情が描かれていた。
 主人公の名前は藤呼遠夜。彼は、特異な体質を持つ少女、花園ハルコを介助しながら日々を過ごしている。遠夜は他のどんなことよりも、ハルコのことを考え、またハルコは遠夜を必要としている。二人の関係は、まさに若くて盲目な恋人同士だった。
 しかし、いつもと変わらない帰り道で起きた小さな事件をきっかけに、物語は思いもしない方向へ転がっていく。少年と少女、二人を置き去りにして。
 これは読者である私たちも、現実の世界でしばしば経験することだろう。ある問題に直面する時、当事者の周りにはたくさんの人が集まってくる。彼らはそれぞれ勝手に行動する。当事者を助けようとする。野次馬になる。ときには、危害を加える。そしていつの間にか、事態は当事者の抱える思いと、まるで違った方向に移行していく。
 この物語でも、事件をきっかけに、遠夜とハルコの周りには様々な立場の人が集まってくる。彼らはそれぞれの正義を掲げて行動する。しかし彼らの行動はある点でよく似ていた。それは、まるでアレルギー反応のような、徹底した異物の排除だった。そして彼らにとっての現実は、二人にとっての現実とはすれ違っている。遠夜もハルコも、当事者のはずが蚊帳の外にいた。
 遠夜は、彼らの生む空気に翻弄されていた。ハルコに否定的な目を向ける人々も、肯定的にハルコを守ろうとする人々も、彼ら自身が生み出す空気にアレルギー反応を起こして、収拾がつかなくなっていった。その中で遠夜は悩み、考え、そして行動する。空気との対決を試みる。
 物語の最後、遠夜はハルコに「自分の身体のこと、どう思う?」と尋ねる。この質問に対するハルコの答えが、まさに二人にとっての現実だった。自らの手では触れることのできない空気に翻弄される中、二人が見つけた現実とは何か? 一見するとファンタジーなこの小説が描く現実は、私たち読者にとってもリアルに感じられるだろう。ハルコの答えは是非、自分の目で確かめてほしい。