【推薦文】いなくなれ、群青

この記事では会員が作成した『いなくなれ、群青』の推薦文を公開致します。
(推薦文とは→http://d.hatena.ne.jp/chuo-bungakukai/20161022/1477118453


[本紹介]
河野裕『いなくなれ、群青』2016年、新潮文庫nex


[あらすじ]
11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凜々しい少女、真辺由宇。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎……。僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。
※上記の文章は新潮社のホームページ(http://www.shinchosha.co.jp/book/180004/)より引用致しました。


[推薦文]
人は誰しも、成長する過程で変化を経験する。
それは外見や環境といった外面的なものから、性格や嗜好といった内面的なものまで、
様々である。
ただ、前者は目に見える変化であるのに対し、後者は目に見えない。
内面の変化は外面の変化と比較して、経験しても自覚するのが遥かに難しいのだ。
『いなくなれ、群青』は、そんな内面の変化に焦点を当てた作品である。


物語の舞台は「捨てられた人々の島」、階段島。
この島を訪れる人たちは失くしたものを取り戻すことで島を出ることが出来るという。
島の住人たちは「捨てられた」というだけあって、一風変わった人間ばかりだ。
学校恐怖症な先生、いつもゲーム音楽を聴いている少年、あらゆる誤解に怯える繊細な少女。
そんな変わった人々に囲まれながらも、悲観主義な少年、七草は平穏な生活を送っていた。
誰よりも真っすぐで正しい少女、真辺由宇と再会するまでは。
二人の再会から、安定した七草の生活は一変する。
島には来ないはずの小学生の登場。ピストル星の落書き事件。島を管理している魔女の暗躍。
七草と真辺はクラスメートと共に真相究明に乗り出す。
だが真実は彼らの理想と反する残酷なものだった。


自らの理想を叶えることは、難しい。
現実では全てが自らの思い通りにいくとは限らないからだ。
むしろ思い通りにいくことの方が少ないだろう。
厳しい現実と折り合いをつけながら、私たちは成長していく。
成長する過程で、諦めたことや妥協した経験があなたにもあるはずだ。
それらは後悔や遺恨といったマイナスな感情を伴って語られるかもしれない。
しかし、この作品はそんな負の側面だけを書いたものではない。
不要だと思っていたものの中からも、得るものがあるはずだ。
作中で描かれる登場人物の苦悩は、あなたにとって過去と再び向き合い、そこから何かを得る契機になるだろう。
過去から学んだことは、必ずあなたの財産となる。
本作は、そんな大切なことを改めて教えてくれる優しい物語だ。